生物はなぜ死ぬのか 生物学者・理学博士小林武彦氏による最新刊

すきま!ためになる記事

  リンクを貼ります。生物はなぜ死ぬのか 小林武彦理学博士

小林武彦氏による最新刊『生物はなぜ死ぬのか』から 

私たち人類は「死」を恐れ、「死」から逃れようとする。多くの人が「できるのなら死にたく

ない」「老いたくない」と思っているだろう。しかし、生物学の視点から見ると、私たち人類を

含むすべての生き物が死ぬことには、重要な意味があるという。死は決して恐れるべきものでは

ないのだ。生物学の視点から「私たちが死ぬ理由」を解説し、新しい死生観を提示する、

このままでは人類はあと100年もたない?

生き物が死ななければいけないのは、主に2つの理由が考えられる

その一つは、食料や生活空間などの不足です。

天敵が少ない、つまり「食われない」環境で生きている生物でも、逆に数が増えすぎて「食えな

くなる」ことはあるでしょう。この場合、絶滅するくらいの勢いで個体数の減少が起こり、

その後、周期的に増えたり減ったりを繰り返すか、あるいは少子化が進み、個体数としては少ない

状態で安定し、やがてバランスが取れていきます。

この生物学をヒトに当てはめてみます。たとえば現在の日本人は、食料や生活空間の不足はほとん

どないのですが、保育所や教育環境、親の労働環境など、いくつかの子育てに必要な要素が不足し

ています。それにより、子供を作れなくなる少子化圧力が強まり、出生数は減り続けています。

死亡率が上がるのも、出生率が下がるのも、人口が減るという意味では同じです。この減少が、日本人の絶滅的な減少に繫がるか、あるいは出生数が低い状態で安定するのかは、今後これらの少子化圧力要因がどのくらい改善されるかにかかっています。

不足は衣食住の物質面だけでなく、精神面においてもあります。子供を作りたくなくなるという

将来の不安要素は、当たり前ですが確実に少子化を誘導します。

私は、何も対策を取らなければ、残念ですが日本などの先進国の人口減少が引き金となり、人類は

今から100年ももたないと思っています。非常に近い将来、絶滅的な危機を迎える可能性はあると

思います。未来への投資は簡単ではありませんが、手遅れにならないうちに真剣に

取り組むべきです。

もうひとつは「多様性」のために死ぬ

生き物が死ななければいけないもう一つの理由は、「多様性」のためです。こちらのほうが、生物

学的には大きな理由です。

というのは、先に述べた「食料や生活空間の不足」は結果論で、しかも限られた空間で生活して

いる生き物の話であって、一般的な「死ななければならない理由」ではありません。不足が生じ

た場合、どこか新しい場所に移動したり、新しく食べられるものを探し出したりすればいいの

です。本当の死ななければならない理由は、これよりも、もっと根本的なことです。

死んだら、新しい生物の材料となる

生物は、激しく変化する環境の中で存在し続けられる「もの」として、誕生し進化してきました。

その生き残りの仕組みは、「変化と選択」です。変化は文字通り、変わりやすいこと、つまり多様

性を確保するように、プログラムされた「もの」であることです。その性質のおかげで、現在の私

たちも含めた多種多様な生物にたどり着いたわけです。

死んだ生物は分解され、回り回って新しい生物の材料となります。新しい生物が生まれることと古

い生物が死ぬことが起こって、新しい種ができる「進化」が加速するのです。ここにも「死」の

理由があります。

「性」が存在するのにも意味がある

次に、多様性を生み出す仕組みについてですが、体の構造が複雑になると、生命誕生時に行われて

いたような、偶然に任せてバラバラにして組み直すようなフルモデルチェンジは、マイナス面の

ほうが大きくなりました。もっと巧みな方法で、ある程度変化を抑えつつ多様性を確保するマイナ

ーなチェンジが必要です。

そこで登場したのが、オスとメスがいる「性」という仕組みです。性の目的は有性生殖です。

多様性を生み出すものが、生き残る

さて、男性の場合、1つの精子の元となる細胞から、減数分裂という染色体数が半分になる特殊な

分裂により4つの精子ができます。その過程でそれぞれの染色体の対からランダムに1本が選び出

され、1つの精子に入ります。その組み合わせ数は、2の23乗通り(約800万)になります。

つまり約800万種類の精子ができるわけです。

これでもすごい数ですが、その染色体の振り分けの際に遺伝子間で「相同組換え」という部分的な

交換が起こります。

相同組換えは女性側の卵の形成時にも起こり、受精では卵と精子がランダムに融合するので、受精

卵の組み合わせはほぼ無限です。

簡単に言えば、兄弟姉妹が仮に何十億人いたとしても、一卵性児(一卵性の双子や三つ子など)で

ない限り、自分と同じ遺伝情報を持った兄弟姉妹は現れません。

つまり有性生殖は、マイナーチェンジの多様性を生み出すために進化した仕組みです。

生物としては子供のほうが親より「優秀」

性に関しては、卵・精子・胞子などの配偶子の形成および接合や受精が「変化」を生み出します。

一方「選択」は、もちろん有性生殖の結果生み出される多様な子孫に対して起こりますが、実は

子孫だけではなく、その選択される対象に、それらを生み出した「親」も含まれているのです。

つまり親は、死ぬという選択によってより一族の変化を加速するというわけです。

当然ですが、子供のほうが親よりも多様性に満ちており、生物界においてはより価値がある、つま

り生き残る可能性が高い「優秀な」存在なのです。言い換えれば、親は死んで子供が生き残った

ほうが、種を維持する戦略として正しく、生物はそのような多様性重視のコンセプトで生き抜いて

きたのです。

親はとっとと死んだほうがいい?

となると、極端な話、子孫を残したら親はとっとと死んだほうがいいということにもなります。

親は進化の過程で、子より早く死ぬべくプログラムされているわけです。

ご存じのように、確かにそのような生き物はたくさんいます。前にお話ししたサケなどはまさに

そうですね。サケは川の最上流まで頑張って行って、そこで卵さえ産めば「親はすぐ死ぬ」でいい

のです。昆虫などの多くの小動物は、サケ同様、子孫に命をバトンタッチして「あとはお任せし

ます」といった具合に死んでいきます。

自分たちよりも(多様性に富んでいるという意味で)優秀な子孫が独り立ちできるように

なるまでは、しっかり世話をする必要があります。つまり子育ては、遺伝的多様性と同程度に重要

ということになります。

ヒトのような高度な社会を持つ生き物は、単なる保護的な子育てに加えて社会の中で生き残るため

の教育が重要です。そのために、親は元気に長生きしないといけません。親だけではなく、祖父母

や社会(コミュニティ)も教育、子育てに関わります。

ですのでヒトの場合は、親や祖父母の元気さ、加えて周りのサポートが大切になってきます。

ヒトのみならず、大型の哺乳類は成長して自活するまで親やコミュニティの保護が必要なので、基

本的には同じです。そして重要となってくるのは、親の存在のみならず「子育て(教育)の質」

です。これは「社会の質」と言ってもいいかもしれません。

生物学から考える「大人の役割」

生物は、常に多様性を生み出すことで生き残ってきました。有性生殖はそのための手段として

有効です。親は子孫より多様性の点で劣っているので、子より先に死ぬようにプログラムされて

います。ただ、死ぬ時期は生物種によって異なります。大型の哺乳動物は大人になるまで時間が

かかるため、その間、親の長期の保護が必要となります。ヒト以外の大型哺乳動物、例えばゾウ

なども、生きる知恵を、親を含めた集団(コミュニティ)から学びます。

このような生物学の死の意味から考えると、ヒトの場合、親や学校なども含めたコミュニティが、

子供に何を教えるべきか自ずと見えてきます。まず、必要最小限の生きていくための知恵と技術を

伝えるのは当然です。昔で言うところの「読み・書き・そろばん」で、現代の義務教育の教科にな

ります。これは社会のルールを理解し、協調して生活するための最低限必要な教育です。

個性を伸ばしたほうがいいワケ


ここからが重要ですが、次に子供たちに教えないといけないのは、せっかく有性生殖で作った遺伝

的な多様性を損なわない教育です。ヒトの場合には、多様性を「個性」と言い換えてもいいと思

います。親や社会は、既存の枠に囚われないようにできるだけ多様な選択肢を与えること、つまり

は単一的な尺度で評価をしないことです。

加えて、この個性を伸ばすためには親以外の大人の存在が、非常に重要になってきます。自分の子

供がいなくても、自分の子供でなくても。社会の一員として教育に積極的に関わることは、親には

できない個性の実現に必須です。

特に日本は、伝統的に「家」を重んじ、しつけや教育をそこで完結させる文化があります。子供が

小さいときには、基本はそれでいいのですが、個性が伸び始める中学・高校生くらいからは積極的

にたくさんの「家の外のいい大人」と関わらせるべきです。私は、少子化が進む日本にとって社会

全体で多様性を認め、個性を伸ばす教育ができるかどうかが、この国の命運を分けると思っていま

す。補足ですが、個性的であることを強要するのは、違います。何が個性か、何が正解かは、誰も

答えを知らないのです。それが多様性の一番の強みであり、予測不可能な未来を生きる力なのです。

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